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「平成21年退職金、年金及び定年制事情調査」(厚生労働省中央労働委員会)によると、「部長は55歳まで」などとする役職定年制の有無に対する質問に回答した企業数218社のうち、制度が「あり」とする企業が104社(集計218社の47.7%)、「なし」とする企業が114社(同52.3%)となっています。
このことから、役職定年制を採用している企業は相当数存在することが分かります。
役職定年制を設ける主な理由は、組織の若返りです。年配者がずっと管理職のポストに居座るのではなく、一定の年齢に達したら若手にポストを譲って世代交代を進めていこうということです。
一見、なるほどと思える理由なのですが、私はこんなナンセンスな制度など廃止してしまうべきだと考えています。
年齢というのは、単に生まれてからどれくらいの期間が経過したかを表すだけの数字です。
「年齢が上がってくると、それまでの経験が邪魔をして、従来の枠組みに囚われ、変革意欲がなくなるので、年を取ったら若い人に道を譲るべきだ」という意見もあります。
全体的な割合で見ると、そういう傾向があるのかもしれないとは思いますが、当然個人差があるので、一律に年齢で区切って仕事に制約を設けることに、どう考えても合理性は見出せません。
たとえば同じ55歳の人でも、「早く引退したいな〜」と思っている人と、「まだまだ働くぞ!」と思っている人がいるはずです。また、従来の枠組みを踏襲したい人と、新しいことに柔軟に取り組みたい人がいるはずです。
企業にとっては、適材適所を実現することが重要ですので、マネジメントの意欲と能力がある人は、年齢に関係なく管理職に就ける環境を用意しておくべきなのです。
これが、私が役職定年制をナンセンスだと思う理由です。
先日、現在人事評価制度改定のお手伝いをさせて頂いている企業の人事部の方にこの話をしたところ、会社としてもそのように考えているとおっしゃっていました。実際に、役職定年を延長できる制度を用意して、優秀な人は役職定年の年齢を超えても管理職に残っています。
組織の若返りという名目を掲げてはいるものの、実態としては一定の年齢に到達した時点でそれまでの管理職としての働きぶりが評価され、特に優秀というわけではない人は、役職定年という名目でポストを外されるという運用になっているのです。
つまり、役職定年制は、「特に優秀というわけではない管理職を、穏便に管理職のポストから外す」という重要な意味を含んでいるのです。
オーナー社長の企業ではあまり考えられないことですが、内部からの昇格者が社長となっている企業では、管理職のポストを外し、合わせて賃金も下げるという人事異動がなんとなくタブーになっているケースがあります。
そのような企業の多くは、職能資格制度になっています。
職能資格制度は、職務遂行能力のレベルに応じて役職や等級が決まるという前提なので、降職や降格人事は、決して大げさではなく、「お前は能力がない」と人間性を否定されたも同然だという空気が社内に蔓延しがちになります。
社員全体がそのような認識にある状況下でポストを外すことは、その社員に退職を勧奨したと捉えられてもおかしくないぐらい重苦しいものなので、よほどのことがないかぎりできません。
その結果、一度役職に就いた社員は、多少仕事ぶりがぱっとしなくても、そのままのポジションに居続けることになります。そうなると、下の世代で優秀な人が出てきても、上の世代が定年退職するまではポジションが空かず、役職に就くことができません。
しかし、会社としてはそのような状態でいいはずがありません。
多くの場合、そのような状態を解消するきっかけとして、定年退職より早い段階でポストを空けることができる役職定年制が運用されているというのが現状です。
ただし、これは問題に対する本質的な解決策にはなっていません。
一番の問題は、いったん管理職になった人を降職できない体質であり、降職が人間性の評価にまで関連付けられてしまう風潮です。
そうなってしまう原因は、前述の職能資格制度にあります。
人の能力をランク付けする職能資格制度をやめ、ランク付けはあくまで担当する仕事の責任の重さや難易度によって行う役割等級制度に変更しなければ、根本的な解決にはつながりません。
役割等級制度は、「責任が重い仕事や、難易度が高い仕事に就いている人には、それに相応する処遇をしましょう」という制度です。
逆に言えば、「高い賃金をもらう人は、それなりに責任のある仕事や難易度の高い仕事に就いて下さい」ということです。
この仕組みに変えることで、降職を含む適材適所の人材配置がかなり柔軟にできるようになり、役職定年制の必要性がなくなります。
役割等級制度では、仮にポストを外れたからといっても、本人の能力を否定することにはつながりません。単に担当する仕事が変わるというだけで、その理由は経営戦略上の理由や組織変更、次世代の管理職育成など様々なことが挙げられます。
当然、管理職としての成果を挙げられなかったという場合にも降職の対象となりますが、それだけではないというのが非常に重要です。
「誰が役職に就くかは経営的判断で柔軟に変更されるので、昇進や降職は特別なことではない。そして役職イコール本人の能力ではない」という認識を社内に行き渡らせれば、降職に対するアレルギーはかなり減ります。
また、賃金は保有している能力ではなく、担当する仕事の責任や難易度によって決まるという認識を持たせることができれば、ポストを外れることによって賃金は下がることについても、本人はある程度納得するはずです。
このような仕組みを実現できれば、役職定年制は不要になります(ついでに言えば、役職定年制と同様の理由で、定年退職制もこれからの時代はなくしてしまうべきだと考えています)。
そして、経営面で必要性があり、かつ本人のやる気と能力があれば、何歳になっても管理職として力を発揮してもらえる環境ができます。
言うまでもなく、めまぐるしく競争環境が変わる状況では、適材適所によって最大のパフォーマンスを上げていくことが求められます。
職能資格制度から役割等級制度に移行して役職定年制を廃止し、年齢に関係なく柔軟に人員配置ができる仕組みを作れば、管理職候補が互いに切磋琢磨し、層が厚くなります。
その結果、中長期的に企業競争力を高めていくことが可能となります。
現在役職定年制を採用している場合は、役割等級制度への移行と役職定年制の廃止を検討して頂ければと思います。
代表 樋野 昌法
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