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企業の社会的責任の1つに、従業員の雇用を維持するというものがあります。
しかし、どんな企業でも、業績の悪化などによって人員を削減せざるを得ないケースは起こりえます。
ただし、いきなり整理解雇というわけにはいきません。きちんとした手順を踏まないと、労働基準法に規定されている解雇権の濫用に該当してしまい、トラブルの元にもなります。
今日は、リストラの一環として人員削減を実施しなければならない場合、法的な問題をクリアし、かつ円満に進める方法をご紹介します。
まず、どうしてもやむを得ない状況になったときに円満に人員を削減するためには、日頃から従業員のエンプロイアビリティ(いつでも他の企業に雇用されることができるような能力)を高めておく必要があります。「自分はこの会社を辞めても食べるのに困らない」という自信が従業員にあれば、いざというときに人員削減に応じてもらいやすくなります。
このことは、いざというときの人員削減に備えるためというよりも、従業員のことを大切に考える社長であれば当たり前に考えていることです。
そして、社長から従業員にエンプロイアビリティを高めることの重要性を常に伝えておくことが重要です。
このような前提のもとで、実際に人員削減をせざるを得ない状況になったときに最も留意すべき点は、自らの決断によって退職する人を多く、企業側から解雇を通告する人をできるだけ少なくするということです。
労働基準法では、企業の解雇権の濫用を禁止しています。業績悪化などにより人員整理を行うことを目的に行われる解雇(整理解雇)については、以下の4つの要件を満たすことが必要です。
1.人員整理の必要性
客観的に整理解雇をしなければならないほどの十分な経営上の必要性があること。
2.解雇回避努力義務の履行
整理解雇を行うまでに、希望退職者の募集、配置転換、出向など、解雇を回避するための努力が充分に尽くされていること。
3.被解雇者選定の合理性
解雇される労働者を選定する基準が合理的なものであり、かつその運用もまた合理的であること。
4.手続の妥当性
整理解雇の必要性、時期、方法、規模、人選の基準についての十分な説明など、使用者が労働者から納得を得るための真剣な努力を行っていること。
特に、上記2については、大まかに次の(1)〜(8)のような手順を追ったかどうかがポイントになります。
(1)人員削減計画・賃金カット計画の立案
(2)新規採用の中止
(3)残業時間の規制
(4)休業の実施
(5)役員報酬カット、昇給停止、賞与カット、給与カット等
(6)一部の従業員に対する退職勧奨
(7)希望退職の募集、実施
(8)整理解雇の実行
(4)の休業の実施については、中小企業緊急雇用安定助成金が活用可能です。
休業手当の5分の4が助成される(※詳細は厚生労働省のHP等でご確認下さい)など、助成率が高いので、人件費負担を大幅に軽減しながら、雇用を維持するのに非常に有効です。
(6)の退職勧奨は、社員側の意思とは関係なく雇用契約を解除する解雇とは異なり、企業側からの退職の勧めに対して自分で意思決定をして退職してもらう方法です。
辞めてもらいたい人に円満に辞めてもらうためのカギとなります。次の(7)希望退職では、辞めてほしくない人に応募されてしまう可能性があるからです。
ただし、対象者の選定にあたっては、合理的な基準が求められます。たとえば、単に主観的な判断でAさん、Bさんなどとリストアップしていくのは認められません。勤務評定の良くない人、退職による生活の変化の影響が比較的少ない単身者など、ある程度の合理的な基準を定めた上で、それに該当する人をピックアップするという流れになります。
また、法的な義務は特にありませんが、退職勧奨に応じてもらうためには、退職金を上乗せするなど、ある程度の優遇措置を設けることが必要です。また、退職後の雇用保険の失業等給付について十分に説明し、次の仕事が見つかるまでの生活不安をできるだけ取り除くことも大切です。なお、優遇措置や十分な説明については、(7)(8)でも必要です。
(7)の希望退職については、部門や職種を限定して募集することもできます。
特に部門や職種を限定しない場合は、「業務上特に必要と認める者を除く」などと定めておけば、重要な人材が退職して業務に支障が出てしまうことを避けられます。
希望退職を実施しても、まだ人員削減計画の定員に満たない場合に、はじめて(8)の整理解雇へと進むことが認められています。
整理解雇は上記手順に基づいて慎重に行わないと、労使紛争に発展する可能性が高くなります。そのため、できるだけ(7)までの段階で人員削減計画の定員を達成するよう努力することが望ましいです。
ただし、上記手順を進め、前述の4つの要件も満たしている場合は、十分な説明をしたうえで、整理解雇の実施に踏み切りましょう。
以上のことに留意し、トラブルなく人員削減を進めることができれば、円滑に再スタートを切ることができます。
代表 樋野 昌法
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