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「人事評価制度を整備したいけど、管理者の負担が増えてしまうのは困る」というご意見を頂くことがあります。
確かに、人事評価制度を整備すると、目標設定、中間評価、期末評価、部門間の評価のすり合わせ、フィードバック面談、人事考課者研修など、制度の運用に伴う管理者の負担は増えます。
しかし、マネジメント全体を考えると、人事評価制度をきちんと整備した方が、管理者の負担は軽くなります。むしろ、人事評価制度が整備されていない状態では、マネジメントはできないと言っても過言ではありません。
ドラッカーは、著書「マネジメント」の中で、マネジャーを「組織の成果に責任を持つ者」と定義しています。経営者や管理者はまさにマネジャーに該当します。
そのマネジャーに共通の仕事として、ドラッカーは次の5つを挙げています。
(1)目標を設定する。
(2)組織する。
(3)動機付けとコミュニケーションを図る。
(4)評価測定する。
(5)人材を開発する。
人事評価制度を整備するということは、上記(2)以外について、全社的なルールを定めて運用していくものです。それは、「社内にスーパーマンが揃っていなくても、それぞれの管理者がマネジャーとして一定レベル以上の仕事ができるような環境を用意する」ということを意味します。
人事評価制度がない場合、よほどのスーパーマンが揃っていないかぎり、マネジメントは不可能です。
なぜなら、部下が仕事を進める際の目標や行動指針が不明確なため、管理者は常に部下の一挙手一投足を見て、事細かに指摘・修正し続けていかなければ、組織としての成果は生まれにくいからです。
たとえば、ある部門で、適宜報告・連絡・相談をしながら業務を遂行することが求められる業務があったとします。
この場合、人事評価制度を整備する際は、「適宜報告・連絡・相談をしながら業務を遂行しているか」といった評価項目を設定することになります。
部下は、報告・連絡・相談をしながら業務を遂行しなければ、いい評価は取れないとはっきり分かります。
そうすれば、部下は常に、報告・連絡・相談をしようと気をつけるはずです。
評価項目に記載されている以上、たとえ上司が誰になろうと、部下が報告・連絡・相談をしようと気をつけることには変わりません。
これだけで、管理者が何もしなくても、部下の行動に一定の方向性を与え、組織の成果につながる下地ができるわけです。
一方、人事評価制度が整備されていない場合、上司は「組織としての成果を生むために部下に何を求めるか」を自分で考えなければなりません。これは非常に負担が大きく、かつ問題解決力をはじめとする高度な能力が必要です。
また、部下に指示した内容はあくまでその管理者が考えた独自のものであるため、他の管理者は別の指示をするかもしれません。
さらに、管理者によっては、特に何も指示しないという可能性もあります。
そうなると、組織のマネジメントは管理者一人ひとりに完全に委ねられ、管理者の能力が、担当する組織のパフォーマンスを大きく左右することになります。
これでは、社内によほど優秀なスーパーマンが揃っていないかぎり、企業全体として継続的に成果を挙げることは難しくなります。
「マネジメントを任せられる人材が社内にいない」という言葉を社長から聞くことがありますが、実は、社長が思い描く「マネジメントを任せられる人材」は、社外にもめったにいないのです。
めったにいないスーパーマンを求めるより、最初はマネジメントを任せて大丈夫なのかと思うような人材でも、一定レベル以上の仕事ができるような環境を用意する方が現実的です。そのために、人事評価制度をきちんと整備する必要があるのです。
冒頭に紹介した「人事評価制度を整備したいけど、管理者の負担が増えてしまう」という意見は、もっともらしく聞こえるのですが、人事評価制度を整備することで管理者の負担が増えるように感じるとすれば、単にそれまで管理者としての本来の仕事をやっていなかっただけなのです。
ですから、「これまで管理者としての仕事をやっていなかったが、人事評価制度を整備することで、管理者としての本来の仕事がやっと始まる」、といった表現の方が適切なのです。
今までよりもさらに一段上のステージに上がる際に、多くの企業が直面するのは、マネジメントの問題です。組織として成果を上げるためのマネジメント力を向上させたい場合は、人事評価制度の整備をご検討されるとよいかと思います。
代表 樋野 昌法
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